コンテンツEXPO東京にて弊社CEO森川が慶應大SFC斉藤賢爾氏と登壇しました!|EventReport
この記事のポイント
- 弊社CEO・森川がコンテンツEXPO東京にてセミナーに登壇いたしました。
- セミナーのテーマであった『エンタテインメント業界のブロックチェーン活用』について、コンテンツ業界・エンタテインメント業界におけるブロックチェーンの実用例と交えながら解説を行いました。
- また、共同登壇者の慶應大学SFC研究所・斉藤賢爾氏からは、『アーティスト支援と文化の継承のためのデジタル通貨』というテーマで、近い将来のお金の在り方、人の活動の在り方についてのお話を伺うことができました。
コンテンツEXPO東京のセミナー企画「エンタテインメント業界のブロックチェーン活用」にGincoの森川が登壇
リードエグジビションジャパン様が主催するコンテンツEXPO東京にて、4/5(木)に弊社CEOの森川夢佑斗が登壇いたしました。
株式会社oriconの雑誌事業本部長兼『コンフィデンス』編集委員である椎葉克宏様をモデレーターとして、慶應大学SFC研究所の斉藤賢爾氏とともに「エンタテインメント業界のブロックチェーン活用」についてのセッションが行われました。
セミナーは主に3部構成となっています。
- 森川夢佑斗:コンテンツ・エンタテインメント業界でのブロックチェーン技術活用
- 斉藤賢爾氏:アーティスト支援と文化の継承のためのデジタル通貨
- Q&A
この記事では、本セミナーで話された内容をレポートしたいと思います。
森川夢佑斗『コンテンツ・エンタテインメント業界でのブロックチェーン技術活用』
セミナーでは、ブロックチェーンの基本的な特性と、それを活かしたコンテンツ・エンタテインメント業界での実用事例を交えながら解説しました。
以下では、森川の講義内容から要点を抜き出して紹介します。
ブロックチェーンとは
ブロックチェーンについては、仮想通貨、フィンテック、分散台帳技術といった文脈で目にされたことがあるかと思います。
ブロックチェーンはP2Pで改ざんできないデータを送信・維持するための技術です。
ネットワークに参加する全てのノードが対等にデータを保持しており、誰でも閲覧が可能。共有されたデータは改ざんが困難です。この改ざんできない台帳を用いた決済処理用のデータベースが広義の「ビットコイン」というアプリケーションです。
狭義の「ビットコイン」という仮想通貨は、このアプリケーション上で擬似的にやり取りされる価値のシンボルにすぎません。
コンテンツ業界に変化をもたらす3つの技術要素
ブロックチェーン技術は、コンテンツ業界においてどのように用いられるのでしょうか。
ブロックチェーン技術の構成要素を切り出して3つの注目すべき技術を紹介しましょう。
分散型台帳
誰でも閲覧可能な状態で、改ざんが極めて困難なデータを記録・公開できる
仮想通貨
独自の電子マネーを発行し、流通させることができる
スマートコントラクト
予め決めた条件に従って、収益分配ができる
以下では、それぞれの技術のユースケースを紹介していきたいと思います。
「分散型台帳×コンテンツ」のユースケース
分散型台帳としてブロックチェーンの機能を用いると、データが改ざんできず、誰でも参照できるデータベースを構築することができます。
このデータベースは、コンテンツ業界において特にデジタル上での著作権の公証に有効です。これにより、インターネット上に多数存在するパクリ・コピーコンテンツに対して、個人が対抗しやすくなります。
一部の著作権管理団体に頼ることなく、業界全体でデータベースを維持していくことが可能なため、既存の煩雑な登録手続きなどを簡略化することが期待されている領域です。
たとえば「Binded」というサービスは、イラストの著作権データをブロックチェーン上に記録して誰もが自己の著作権を主張できるサービスを提供しています。
「mediachain」もBindedと同様に、音楽の著作権データをブロックチェーン上に記録できるサービスです。
また、スタートアップだけでなく、既存の企業もブロックチェーンを用いたサービスを提供しようとしています。
皆さんもご存知のフィルムメーカー「KODAK」は、フォトグラファーのための写真の著作権ブロックチェーンを開発し、プラットフォーム内の通貨「KODAKCoin」を用いて写真のライセンス販売ができるサービスを予定しているようです。
「仮想通貨×コンテンツ」のユースケース
一般的に、通貨には「価値の基準」「価値の保存」「交換の手段」という3つの機能があります。
これに加えて、通貨が流通するコミュニティを市場化するメディアとしての機能を有しています。
そこで、ブロックチェーンを用いることで特定のコミュニティの中で通貨を発行し、そのコミュニティ内での通貨にまつわるルールを設け、コミュニティ全体を活性化させることができます。
これらの通貨は、ゴルフ券のようにコミュニティ内で活動する際の支払いや、権利の証明に使えるほか、コミュニティ外と投機的に売買されることもあります。
2017年に話題になった「VALU」というサービスは、個人が自分用の通貨を発行し、自由に売買できる、相場に紐付いたファンクラブのようなサービスです。
このように個人を中心としたコミュニティは仮想通貨と相性が良く、いろいろな種類の仮想通貨コミュニティサービスが存在します。コスプレコミュニティに特化した「Cosplay Token」などのように裾野はかなり広がっています。
このサービスの場合、コスプレイヤーの写真に対してトークンで投げ銭が可能になるなど、キャッチーなユースケースがいくつか存在しています。オタクコミュニティに特化した「オタクコイン」なども面白い取り組みですね。
「スマートコントラクト×コンテンツ」のユースケース
スマートコントラクトとは、予め決められたルールに従って自動的な収益分配を可能にするブロックチェーン技術です。
管理者やエスクローのような処理が不要のため、より開けたプラットフォームサービスが構想されています。
特に、動画や音楽といった「コンテンツを世に出すこと」と「そのコンテンツを管理しマネタイズすること」を非常に簡単に行えるようになるため、YoutubeやSpotifyなどのサービスをブロックチェーンで置き換えるサービスが注目を集めています。
既に動き出しているものでは、動画を配信するプラットフォームの「Singular」などがあります。
その他にも、音楽ファイルのアップロードから販売までを分散的に実現するプラットフォームの「OPUS」、「VOISE」や、アーティスト支援プラットフォームの「ZIMRII MUSIC」などが有名です。
まとめ
しばらく前に、キュレーションメディアなどを筆頭に、デジタルコンテンツの著作権が大きな問題として取り上げられました。
これらの管理をブロックチェーンに置き換えていくという流れが、現実的で有用性が高いように感じます。
また、コンテンツに関係した企業やコンテンツホルダーらが、独自の電子マネーを発行し、ファンのロイヤリティを高めるアプローチが普及していくでしょう。
(以上、森川の登壇内容から抜粋)
斉藤賢爾氏『アーティスト支援と文化の継承のためのデジタル通貨』
斉藤博士のセミナーでは、「今から30年くらいを目処に”お金”というものから脱却しないことには、私たちの生きる社会・環境が保たないのではないか?」という仮説について、エンタテインメント業界に関連しながら、過渡的に何が起こるかを、解説していただきました。
以下では、斉藤博士のセミナー内容の要点を抜粋しながら、その様子をレポートしたいと思います。
今、マネーに何が起きているか
去年はいわゆる「仮想通貨」の台頭(そもそも通貨は全て仮想だが)がありました。ただ、ビットコインなどは値動きが激しく、投機的なムーブメントが発生していますね。
私たち研究者の見解としては、需要の増減に対して供給が反応しないという設計上の問題がある。需要がそのまま価格に跳ね返ってきてしまう、という問題です。
その他にも取引所などのハッキングリスクもありますし、ICOにもまだまだ問題がある、という現状にあります。
また、電子マネーという文脈においては、大手の銀行が新たなデジタル通貨や地域通貨を発行するようになっています。中央銀行もJPYをデジタル化することを検討しているようです。
スマホにデジタルJPYと、その管理アプリが入ってくるとすると、銀行の機能のほとんどが食われてしまいます。中央銀行以外が不要になるので、なかなか取り組めない。
マネーレスの時代を迎えるための前段階として、キャッシュレス社会が必要となるのですが、日本においてはこれまで真剣な取り組みがありませんでした。
キャッシュレスの文化が浸透すると私たちの生活・意識からお金の存在がどんどん薄まっていきます。そうするとお金の本質である「信用」が問われるようになるはずです。
ビットコインの「問い」
ビットコインという技術が答えようとしている「問い」を想像してみると、「自分が持っているお金を、いつでも自分の好きに使うことを誰にも止めさせない」というセンテンスが浮かび上がってきます。
このためには、自分が自分であり、そのお金の所有権を持っていることを自分だけの力で証明しないといけません。中央の権威機関も排除しなければいけません。
この問題に対してデジタル署名・公開鍵暗号方式という技術を巧みに用いているのがビットコインです。
ビットコインの仕組みにおいては、お金を盗まれたら誰にも取り戻せない。NEMの場合でも、プラットフォーム全体が盗まれたNEMを取り戻さないことを決めました。
逆にEthereumではかつて「取り戻す」という選択をプラットフォーム全体で行いました。
プラットフォームがこのような調停 (=司法) をできたり、開発者が”code is law” (=立法) と考えているならば、開発・運用に関わるコミュニティが政府の機能を持つことになってきます。
これまで政府の役割だった領域に、どんどん民間が入ってきているとも言えるでしょう。
ICOが注目されているが…
ICOは典型的な「一山当てたい」モデルですよね。一山当てたい人たちが、これから実施するプロジェクトで使うデジタルコインを先物売りする。周囲の一山当てたい人たちも、値上がりを期待して先物買いをする。この連鎖で無制限に額面的価値が膨らんでしまいます。
この問題は「1億円の事業資金で10億円のビジネスを作ろう」と考えている人が、ICOだけで100億円を儲けてしまったら、もうその時点で「一山当たった」ことになってしまうわけです。
こういうものが「新しい!」と持て囃されているのですが、実のところ400年前の貿易会社の時代にも同様のことが行われていますよね。
これに対して、例えば、時間にともなって減価する貨幣モデルを採用すると、最初に勝手に発行した通貨・トークンを負債として考えることができ、その通貨を使って生み出していったサービスで、発行者が自身の負債を償却していくことになります。
この場合、負債を償却してもらった後はフリーで利用してもらうことになるので、社会貢献・社会への贈与がより実現しやすくなる世の中になっていきます。
まとめ
私は、経済と信用について「氷山モデル」を念頭に置いています。
資本主義の世の中で普通に暮らしている限りでは、お金の持っている力がとても大きく感じられてしまいますが、その下にはとても大きな「信用」の仕組みが存在します。
一番深いところには、家族の関係のような「全て贈与で成り立つ世界」があり、その上には仲間内や友人関係のように「お金がなくとも信用で成立する世界」があります。
これまで注目されてきた、「お金の世界」から、少しずつ「信用の世界」に回帰していくことになる、という仮説が私の考えです。
Q&A
Q.信用の世紀においても欲望はなくならないと思います。既に信用を勝ち得た人と、そうでない人との間で格差が固定化するのでは?
斉藤博士「中国などでは信用のスコアリングが盛んですが、既存の貨幣経済の仕組みは競争を前提としているので、いかに人を押しのけて信用を積み重ねるか、という評価軸で生きざるをえない。しかし、それは私にとっては少し生きづらい」
斉藤博士「普通に暮らしているかぎり、それを取り巻く人がたくさんいるわけで、そういう人たちと”贈与”を中心とした経済圏を共有していけば、『足るを知る』生き方になっていくかな、と思います。貨幣経済を前提としない贈与を軸にした設計が重要、というのが私の考えです」
斉藤博士「また、欲望がなくならないという前提について私は懐疑的です。というのも、お金の仕組みによって欠乏が演出されているので。現代は何をするにもお金が必要で、とりあえずお金が欲しい、お金があったら何かに使いたい、という世の中です。今よりはるかに自動化やエネルギー効率の向上が進み、限界費用ゼロの世の中が訪れたとき、私たちに欲望はあるのでしょうか」
Q.ずばり音楽業界でのブロックチェーン活用は、具体的にどう進んでいくのでしょうか?一気に普及するとしたら何がきっかけでしょうか
森川「事業者の目線で考えれば、例えばAppleのプラットフォームを使った場合、30%くらいの手数料を取られてしまう。またキャッシュフローも良くない。構造上、プラットフォーム自体はブロックチェーン技術でより良いものになっていく中で、いかにコンテンツホルダーに使ってもらうか、が重要です」
森川「いま、ガラケーを使っている人ってあまりいないじゃないですか。スマホの方が高度な技術なのに、アーティストも消費者もスマホを使っている。使えるようになったことでスマホのプラットフォームが育つ。そうやって、企業や開発者とユーザーの距離感が近づいていくことがきっかけになるのではないかな、と思います」
まとめ
コンテンツやエンタテインメント業界について、ブロックチェーンがもたらす影響を、具体的・抽象的に議論したセミナーとなりました。
モデレーターを努めていただいた椎葉様、ご一緒させていただいた斉藤博士、お招きいただいたリードエグジビションジャパン様、誠にありがとうございました!
主催者紹介
運営元:リードエグジビションジャパン様
URL:http://www.reedexpo.co.jp/