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Sep 28, 2018

FINSUM/REGSUMトークセッション『ブロックチェーンを社会実装するためには』|Event Report

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GincoMagazine編集部
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FINSUM/REGSUMにてトークセッションを行いました

2018年9月25日から28日にかけて、日本経済新聞社と金融庁が共同主催するFINSUM/REGSUMに参加いたしました。

その様子はこちらの記事でも、簡単にご紹介しております。

イベントの様子

今回は、同イベント内でGinco・Aerial Partners・ALISという日本のブロックチェーン企業3社が集まって実施した「ブロックチェーンスタートアップによるトークセッション:ブロックチェーンを社会実装するためには?」にて行われた議論を、記事として公開いたします。

セッションのはじめに

本セッションの前提として、各登壇者の紹介として下図のように業界を構造化しました。

GincoMagazineでも繰り返しお伝えしているとおり、ブロックチェーン業界はレイヤーで切り分けて整理することができます。

レイヤー構造

レイヤーは大別して、プロトコル、アプリケーション、インターフェイス、レギュレーション、マーケットの5つです。これらのレイヤーごとに事業者がおり、それぞれが自身の事業を通じてユーザーの課題を解決していくことで、魅力的なユーザー体験を生み出し、ブロックチェーン技術の社会実装を進めていくことができます。

各プレイヤーの立ち位置

そこで、今回はレギュレーションレイヤーの代表として仮想通貨の確定申告ツールを提供するAerial Partners沼澤さん、インターフェイスレイヤーの代表として仮想通貨ウォレットを提供するGincoの森川さん、アプリケーションレイヤーの代表としてブロックチェーン技術を使ったソーシャルメディアを提供するALISの安さんのお三方にご登壇いただき、ブロックチェーンをいかに社会実装していくかについて、活発な意見交換を行いました。(以下、全て敬称略)

登壇者

以下では、このセッションで繰り広げられた意見交換の様子をまとめます。

Q1.なぜ、ブロックチェーン技術に取り組んでいますか?ブロックチェーン技術の可能性をどこに感じますか?

質問1

Ginco・森川「ブロックチェーンが資産をデジタル化し価値の流動性を高めていく」

森川「今私たちの身の周りにある金融資産が、デジタルに取り扱えるような社会の基盤を作りたいと思ったからです。それを実現するべく、ウォレットのアプリケーション開発を行っています。

学生時代に、元々ただの消費財だった身の回りのものがお金という価値あるものに変わり、それらの流動性が高まっていく、というシェアリングエコノミーのインパクトを目の当たりにしました。

ブロックチェーンも同様に目の前にあるただのデータを価値あるのもに変え、それの流動性を高めるという技術であり、新たな次のステップの経済革命を起こすという確信を持ちました。」

ALIS・安「新しい時代を圧倒的なスピード感で到来させることができる」

「私がブロックチェーンに取り組んでいる理由は、新しい時代を圧倒的に早く到来させられることになると思ったからです。

例えばそれは、個人が自分の好きなこと・得意なことを生かして、生活を営んでいく、従来の資本を前提とした事業者主体の世界ではないサービスの普及ですし、私たちのALISもそういったプラットフォームを目指しています。

私自身はもともとAIやVR領域に携わっていましたが、ブロックチェーンを知ったときにこっちのほうが世の中を変えそうだと感じました。ビットコインの技術に感銘を受け、これは価値にフォーカスしたサービスを作れるだろうと感じたからです。」

AP・沼澤「時代を変える技術であると同時に、多くの摩擦を生んでしまう」

沼澤「ブロックチェーンの技術としての根本思想に惚れてしまったからです。同時に、この技術の普及には数限りない摩擦が生じるとも感じました。

歴史を振り返るとそれぞれの時代には技術革新にともなって様々な摩擦が生じていました。例えば農業革命の時代には権力や抗争が生まれ、産業革命の時代には、環境破壊が生まれ、情報革命の時代には、情報過多やセキュリティといったようにです。

ブロックチェーン革命で起こりうる制度の摩擦の解消に努めることでブロックチェーンの普及に貢献したいと思ったからこそ、現在は仮想通貨という新しい資産・お金にまつわる税務の摩擦解消に取り組んでいます。」

Q2.ブロックチェーンが普及していくために、解決すべき課題や必要なソリューションはなんだと考えていますか?

質問2

ALIS・安「サービス体験を作る、ユーザーが触れられる環境を整える、事業者とユーザーを守る法規制を施す」

「ブロックチェーン普及のためには3つのものが必要になると考えています。

1点目は、私たちALISが1番注力している「ブロックチェーンという技術に触れてもらう機会・体験」を提供することです。

2点目は、誰でも簡単にわかるような「ユーザーフレンドリーな環境の提供や技術進展」です。

3点目は、法規制ですね。

ブロックチェーンと仮想通貨はよく分けて考えられることが多いですが、私は不可分だと思っていますので、ブロックチェーンと仮想通貨の両方が加味した規制が必ず必要になってくるだろうと思っています。」

AP・沼澤「ブロックチェーン・仮想通貨を十把一絡げに取り締まらないこと」

沼澤「私は、Aerial Partnersが取り組むレギュレーションの観点からお話させていただきます。

皆さんもご存知の通り、仮想通貨交換業者制度は、決済や送金といった「通貨」としてのユースケースを主軸に作られたものなのですが、ALISさんのように決済を主目的とせずに社会課題に取り組んでいこうというプロジェクトも多々出てきているのが現状です。

ブロックチェーンのレイヤーごとに対象とする法律の整備が進んでいくと、日本からもブロックチェーンプロジェクトがどんどん出てきて普及につながるのではと考えています。」

Ginco・森川「私たち一人ひとりが、”今”に疑問を感じること」

森川「世間一般の考え方が変わる必要があると考えております。

従来のwebサービス上で利用される個人情報の多くは、自分ではなく中央管理者に依存している状態にあります。

わかりやすい例を挙げると、YouTube等のウェブサービスは中央集権的に管理されているので、違法とみなされると管理者の都合でBAN(消されて)されてしまいます。これとは真逆に、仮想通貨のようなブロックチェーン上のデータは自分の情報を自分だけで管理するもので、事業者のコントロールを受けません。

このようにインターネット上での経済活動の主語が全て自分になるのがブロックチェーンの世界です。今後この様な考え方の浸透がブロックチェーンの普及には必要ですし、現在の解決すべき課題なのではと思っています。」

Q3.みなさんが事業を通じて「日本のここが良い」と感じるところは?

質問3

AP・沼澤「国際的にも投資家の取引ボリュームが残っていること」

沼澤「昨年来、世界の仮想通貨のマーケットの中で日本の投資家の取引ボリュームがずっと1番であることは非常に良い環境だと思っています。

仮想通貨取引によって生じる、税務計算や取引のハードルの高さといった新たな課題を解決するような金融の中心とは少し離れた副次的なプレイヤーにも、ビジネスチャンスが生まれていることは日本の良さと言えるのではないでしょうか。」

Ginco・森川「ツールを利用し始める前に知識を身に着けようとしてくれること」

森川「事業環境という観点からお話させていただきますと、日本の利用者は自分が今から始めようとするものに対して、理解をしようとしてから始めるわけなんですよ。逆に海外だと「とりあえずDLして使わなかったら消すか」くらいのライトさです。

私達は仮想通貨のウォレットアプリを提供しているんですが、ユーザーのみなさんにすでに仮想通貨やバックアップに対する理解があるので、ヒューマンエラーが非常に少ないんです。

そういった点で、専門性が高く特殊なブロックチェーン業界においては、日本での事業は比較的やりやすいかな、と感じます。」

ALIS・安「独自のコミュニティが育ちやすく、力強いこと」

「正直ベースでお話すると、去年と今年では市場が全然違っていて、去年の活発な状態から一転して、今年厳しい状態になってます。そんな状況を受けて、日本で事業を続ける意味があるのかという話をスタートアップ界隈で繰り返し耳にします。

ただ、日本のプレイヤーが少ないからこそ、あえて日本でやるというチャンスがあるかもしれないですね。

また、これとは別軸で、日本のユーザーコミュニティは非中央集権的なプロジェクトへのコミットメントが非常に高く、心強く感じています。この熱量も非常に魅力的な特徴ですね」

Q4.反対に「日本のここが厳しい、事業を展開しづらい」と感じるところをそれぞれ教えてください。

質問4

Ginco・森川「プレイヤーを生み出していくエコシステムがないこと」

森川「ほぼ法規制の話になってしまいますが、それが課題というだけで問題であるとは思っていないです。

ただスタートアップの事業のしやすさにかなり影響を及ぼしているのも事実ですね。特にプレイヤーの量と質は海外のプレイヤーと比べたときにまだまだなのではと個人的には思っています。

国内で事業がどんどん育っていくようなエコシステムの形成が、日本ではできていないことが問題です。」

ALIS・安「海外の情報源へのアクセスが難しいこと」

「私も同様に、プレイヤーの数が海外と比べて圧倒的に少ないのが課題で、遅れているという印象はあります。

それに加えて、日本人は自分含めて英語をできるひとが非常に少ないので、海外とのコミュニケーションが取れなかったり、一次情報であるホワイトペーパー等も読むことができないというのは、国内の業界の妨げになっているのではと思います。」

AP・沼澤「やはりどうしてもプレイヤーが少ない」

沼澤「前のお二方にほぼ代弁していただいたような形になるのですが、やっぱりプレイヤーの少なさですよね。

新しく日本でブロックチェーンの事業を行うとなると資金調達であったりガチガチの法規制に阻まれ、海外に出ていくという流れがあるのは仕方のないことなのかなと思います。

ただ、今後は法規制の摩擦が解消されていくことで強固なフレームワークやルールができ、日本のブロックチェーン事業の発展が望まれるのではと信じています。」

Q5.仮想通貨やブロックチェーンに対する考え方について、自分と世間のギャップを感じるところは?

質問5

ALIS・安「仮想通貨とブロックチェーン技術への態度が極端だなと感じます」

「1番感じるのは、仮想通貨は悪いけどブロックチェーンはいいよねという意見を聞く点ですね。

仮想通貨のイメージが先行してブロックチェーンって日本では難しいんじゃないの?という風潮があると感じています。

個々の認識が仮想通貨とブロックチェーンで別々ではなく一緒のセットで語られるようになると、より良い形で業界発展につながるのではと思っています。」

AP・沼澤「市場の期待感がシュリンクしたとき、技術のポテンシャルを過小評価してしまっている」

沼澤「昨年マーケットキャップがずっと右肩上がりで、仮想通貨・ブロックチェーンへの期待感がすごく高まったのですが、今年に入って大規模な流出事件がおこり、「仮想通貨やブロックチェーンはやっぱりだめですよ」という世間的な意見が生まれてしまった。

これはインターネットの黎明期とよく似ていると思っています。

しかしながら横に座っているお二方をはじめ、この逆境の中でブロックチェーンに取り組んでいる事業者は、技術的な可能性を信じ切って猛進しています。

そういった方がこれからの未来を作っていくのではというふうに考えていますし、世間とのギャップを感じる点でもあります。」

Ginco・森川「非中央集権や管理者不在といったコンセプトに対する受け入れ方にギャップを感じます」

森川「これまでは多くのサービスやシステムが中央の管理者を介して行われてきたことは事実です。そんな中、「非中央集権です」「ビットコインには管理者がいないんです」という概念が近年急速に注目を集めはじめました。

だからでしょうか「よく分からない、危険なもの、異物に感じる」という方をよく見かけます。私としては、もう少しメタ的に「これまでかかっていたコストを抑える効率化のための技術」と捉える方が受け入れやすいのかな、と。

もちろん、ブロックチェーン技術が与えているインパクトは革新的なものではありますが、「人と人が直接やり取りをする」「公共のシステムを参加者全体で維持する」というアイデア自体は、実のところ私たちの生活のいたるところに存在していたはずです。

ブロックチェーン技術によってもたらされる革新は、人と人のコミュニケーションを非常にピュアな形で実現するものなのですが、受け入れられないものと拒絶してしまうことで、世の中を良くする可能性をみすみす逃してしまう。

その意味で、ブロックチェーンを「新しくてよく分からない技術」だと感じさせずに、「魅力的で便利な体験」だけを届けていくことが、ブロックチェーンの社会実装における難所になってきます。」

Q6.あらためて、日本の規制がどうなるともっと良くなるとお考えですか?

質問6

AP・沼澤「イノベーションを推進するために、チャレンジングな環境づくりを」

沼澤「ブロックチェーンの領域だけに言えることではないのですが、イノベーションというのは「まずやってみて、問題が起こったらその都度解決していこう」というのが一般的だと思っています。

だからこそ、日本のイノベーターが参加しやすい、オープンイノベーションができるような環境づくりが大切なのではと思っています。」

Ginco・森川「ユースケースごとの柔軟な対応と、活発な意見交換を」

森川「仮想通貨によって、日本にいながら世界中どこにでも決済サービスを提供できるようになりました。どこで事業を行おうとあまり関係なくなってしまったわけなんですね。

私達は、現在、国内の規制に則って事業を行っていますが、今後海外に事業を展開するにあたって、国内と海外の規制のどちらが適用されるのかという問題に直面します。実際にDEX実装にあたっては、この問題に出くわしました。

日本では、仮想通貨やブロックチェーンにまつわる規制をいち早く対応してしまったがゆえに、ユースケースごとに柔軟な対応をしていくことが難しくなってしまっています。

消費者保護や法令遵守といったものが、事業者の守るべき大前提だからこそ、柔軟な対応や活発な意見交換を行っていきたいと思います。」

ALIS・安「取引所を主軸にした規制と、事業者を主軸にした規制を切り分けていく」

「日本では、どうしても取引所主導の規制が行われてしまいますが、そうなると通常のサービスにブロックチェーン技術を組み入れたい事業者側の肩身が非常に狭くなってしまいます。

というのも、各事業者が取引所に嫌われないように動くことばかりにベクトルが向いてしまい、本来の自分たちのやりたかった価値提供とは離れていってしまうからです。

個人的な意見にはなってしまいますが、取引所主導の規制が少しでも変わればよいのではと思っております。ただ、現状は致し方ないというのもまた、本音ではありますね。」

まとめ

今回のトークセッションでは、日本のブロックチェーンスタートアップ業界でそれぞれのレイヤーを代表するお3方にご登壇いただき、「クリプトスタートアップが考えるブロックチェーンの社会実装」について意見交換を行っていただきました。

特に、金融庁と日経新聞が主催する「FIN/SUM×REG/SUM」という場をお借りしたことで、事業者自身による生の声を聞き出すことができたように感じます。

また、今回のセッションに快くご参加いただいたAerial Partners・沼澤さま、ALIS・安さまには、重ねてお礼申し上げます。

今後もGincoでは、ブロックチェーン業界の事業者の皆様、開発者、ユーザーの皆様とともに、この業界をより良く、活性化していくために尽力してまいりたいと思います。

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この記事を書いたライター GincoMagazine編集部
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