なぜセキュリティトークンがブームとなっているのか?アメリカの規制と証券市場|セキュリティトークン特集
はじめに
第1回では、セキュリティトークン・有価証券とは何かや、実際にどのようなSTOの事例があるかについてお伝えしました。
今回は、セキュリティトークンがなぜこの1年ほど注目を集めているのかについて、背景を解説していきたいと思います。
結論から言ってしまうと、現在セキュリティトークンビジネスが盛り上がっているのは主としてアメリカです。そしてアメリカにおいて、セキュリティトークンはICOに代わる新たな資金調達方法となるだけでなく、米国証券業界の課題を解決するものだと見られています。
それがなぜなのか、以下で詳しく説明していきます。
主要なプレイヤーの多くがアメリカを中心に活動している
まず、世界各国のどの地域でセキュリティトークンがブームとなっているのかを見ていきましょう。
現在セキュリティトークンの発行プラットフォームや、流通プラットフォームの多くはアメリカでビジネスを行っています。発行プラットフォームではPolymathやSecuritize、流通プラットフォームのOpenFinanceやtZEROはいずれもアメリカが拠点です。
また、実際に行われているSTOの案件を見ても、現在リスティングされているものまで含めて、およそ3分の1がアメリカの企業によるもので、最多となっています。この他には、マルタやスイスなどが多くなっています。
これには「アメリカのブロックチェーン業界が盛んだから」というだけに留まらない、特有の理由があります。
それは、主に
- Securities and Exchange Commission(以後SEC)のICO規制方針
- プライベートな市場の規模と特徴
の2つです。
それぞれ、具体的に見ていきましょう。
SECによるICOの規制方針
SECはICOに厳しい姿勢で臨んでいる
アメリカの金融を取り締まるSECは、ICOに対して非常に厳しい姿勢を取っています。
具体的には、ICOによって発行されたほとんどのトークンが有価証券に該当するとして、SECへの登録が必要であると述べられています。この有価証券に当たるかどうかの判断は前回記事でご紹介したHoweyテストによって行われています。
たとえば、2018年11月にはDEXのEtherDeltaの創設者が、有価証券の取引所を無登録で運営したとして罰せられています(詳細はこちら)。この他、ICOを行った企業が罰金を科されたといったニュースも報道されました。
つまり、ICOで投資色の強いトークンを発行してしまうと、将来的に有価証券として規制される恐れがあるということになります。
不確実性の高いICOではなくSTOという潮流
このため、アメリカを中心として「ブロックチェーンを利用した資金調達では、有価証券関連の法律に従おう」という流れが生まれました。しかし、実際にSECへの登録を行うには1年ほどかかるうえ、資金も1億円以上は必要となります。
そのため、専ら「このような場合にはSECへ登録しなくていい」という免除規定を利用するかたちでSTOが行われています。
これは主として中小企業向けの規定で、証券を販売する対象や証券の発行額を限定することで、規制を緩めるという趣旨のものです。
具体的にどのような規定があるか、以下に見ていきましょう。
免除規定には4種類ある
SECによる免除規定には以下の4種類が存在します。
アメリカで発行されるセキュリティトークンの多くは、「Regulation D」と「Regulation S」に則っています。
そのほかにも、時間的な余裕があり資金の準備も可能な場合には「Regulation A+」、少額の資金調達を行う場合には「Regulation CF」が利用されることもあります。
ポイント
- アメリカでセキュリティトークンが注目されている背景として、SECがICOに対して厳しい規制方針を取っているという事情がある
- そのため、「有価証券関連法案に従ってトークンを発行する」という枠組みのもとSTOが行われている
- 多くのSTOはSECへの登録が不要となる免除規定のもとで行われている
プライベートな市場の規模と特徴
膨大な未公開株市場
アメリカで、セキュリティトークンが脚光を浴びている背景事情がもうひとつあります。
それは、NASDAQなどの証券取引所で売買することのできない、プライベートな資産の市場規模が大きいということです。
たとえば、未上場企業の株式や、上場REIT以外の商業不動産などがこのプライベートな資産に含まれます。
特に未上場株式の市場は膨大です。アメリカではリーマン・ショックの反省を踏まえて2010年にドッド・フランク法が制定されたことによって、上場企業の報告業務などの負担が大きくなっています。そのためスタートアップがIPOを行い、投資家やベンチャー・キャピタルが株式を売って利益を得る(exitする)ことができるようになるまでの期間が非常に長くなっています。
たとえば、UBERやAirbnbなどは世界に名だたる大企業となりつつありますが、それらは未だ未上場株式でありユニコーン企業とも呼ばれています。
もちろんその分M&Aも増加しており、exitの方法はM&Aが主流になってきてはいますが、やはり未公開株の市場は圧倒的といえます。
プライベートな市場の流動性を高める
未公開株式や多くの不動産については、現在流通の市場が非常に少ない状態です。上場株式は取引が完了するまでに約2日かかりますが、これらのプライベートな資産取引には様々な業者が関わるため、アメリカではだいたい2週間から8週間かかります。
この低流動性は不便をもたらすだけでなく、適正な価格での取引を阻害してもいます。気軽に売ることができる資産の方が需要が多いので、流動性が低い分、価値が割り引かれて取引されていると考えられるためです。
したがって、資産をトークン化して流動性を高めることには、効率化だけではなく資産の評価を適正化するというベネフィットもあります。
また、有価証券には、たとえば「A、B、C国の投資家には売れないけれどもD、E国の投資家には売ることができる」といった複雑な制約が設けられていることもあります。こうした面倒な条件はこれまで人が判断していましたが、スマートコントラクトを利用することで、自動で適切な相手にのみ売買を行うことが可能となります。
トークン化することのメリットをまとめると以下のようになります。
- 海外の投資家からグローバルな資金調達を行うことが容易になる
- 資格のある投資家同士で売買のマッチングを簡単に行える
- 即時に取引完了ができる
- 24時間365日取引が可能になる
ポイント
- アメリカでセキュリティトークンが注目を集めているもうひとつの理由は、市場で取引されないプライベートな資産の規模が大きいことにある
- 特に、未公開株や上場REIT以外の不動産はexitまで長い時間がかかるため、トークン化することで流動性の向上が見込める
- トークン化は、グローバルな資金調達や資産の適性評価といったベネフィットももたらす
まとめ
ここまで、アメリカの背景とともに、なぜセキュリティトークンが流行しているかを解説してきました。まとめると、アメリカでは
- SECが多くのICOトークンを有価証券に該当するものとして規制を強化している
- IPOが難しくなっており、未公開株をはじめとしたプライベートな市場の規模が大きい
という状況が見えてきます。トークン発行に関する規制が整備されるなかで、未公開株のようなプライベートな証券市場の課題を解決するための方法として、セキュリティトークンが注目されているということです。
ただ、セキュリティトークン関連のビジネスはアジアやヨーロッパでも広がりつつあり、世界的な流れとなっているとも言えます。
一方日本では、規制状況も市場規模も大きく異なるため、また別途状況を見ながら考えていく必要があるでしょう。
次回は、証券をトークン化することによってどのような業務が効率化されるか?について解説していきたいと思います。
参考記事:
セキュリティトークン記事特集
第1回:セキュリティトークンとは何か?有価証券をブロックチェーンに乗せることの意義
第2回:なぜセキュリティトークンがブームとなっているのか?アメリカの規制と証券市場
第3回:ブロックチェーンは証券決済をどのように効率化するか?ポストトレード業務における活用