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Mar 01, 2018

独裁国家ベネズエラが仮想通貨ペトロを発行した背景とは|BlockchainTopics

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GincoMagazine編集部
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この記事のポイント

  • ベネズエラ政府が突如仮想通貨petroのプレセールを実施した背景には、世界各国からの経済制裁に対するカウンターの意図が感じられる。
  • petroは石油資源に直接ペッグされてはおらず、石油資源を持ったベネズエラ経済に紐付いた国債のように振る舞う。
  • petroは旧来の石油資源に偏ったベネズエラ経済を良くも悪くも象徴するような通貨といえるでしょう。

概要

ベネズエラ政府は今月20日に仮想通貨ペトロのプレセールを行いました。

このプロジェクトが、予定通り行われれば、ベネズエラ政府は50億ドルもの資金を調達することになります。

このプロジェクトには懐疑的な声が多くみられましたが、プレセール解禁から一晩明けた21日には約7億ドルもの資金が集まりました。

ペトロのホワイトペーパーによれば、「ペトロは、独立していて透明性の高い市民がに開かれたオープンデジタル経済の発展のために国家が仮想通貨を発行する先駆けであり、これは埋蔵石油が紐づけられた通貨である。また、この通貨は途上国間の貿易や自律化、開発に貢献するような、より公平な金融システムの成長のためのプラットフォームとして機能するだろう。」とあり、ただの資金調達だけでなく、野心的な構想を秘めたプロジェクトであることが見えてきます。

この記事では、新通貨ペトロがどういった背景から生まれた、どんな通貨なのかを解説したいと思います。

ICOの背景 -ベネズエラの外交・経済・政治状況-

ペトロのホワイトペーパーに目を通すと、真っ先に目に飛び込んでくるのは以下の一文です。

「ペトロの元となったものは、ウーゴ・チャベス前大統領の、資源(raw materials)により強い通貨を取り戻すというアイデアだ。」

それではウーゴ・チャベス前大統領のアイデアとはなんなのでしょうか?

チャベス前政権誕生以前

20世紀初頭から80年代まで、ベネズエラは石油を中心とした豊富な鉱物資源を背景に成長をしていました。

その反面、石油利権がアメリカ資本と結んだ少数の特権階級に握られて、貧富の差が社会問題となっていました。更に80年代以降、アメリカ的な新自由主義の経済政策が導入されたことで、貧富の差がさらに拡大し、1989年に暴動にまで発展します。

参考文献:革命のベネズエラ紀行

この暴動と1992年のクーデター計画で民集の支持を得た、ウーゴ・チャベスは1998年に大統領に立候補し政権を発足させました。

チャベス
(2013年 ロイター/Jorge Silva)

チャベス政権の方針

チャベス前大統領による方針は、実質的な社会主義国家の樹立です。

国内外の資本の民間企業や農地を強制的に国有化し、石油をもとにした国家収入を貧困解決などの社会政策に振り向けました。

この「石油資源を元にした国内経済の活性化」がpetroのコンセプトにも引き継がれています。

チャベス政権の反動

一部の権力者に集中していた富を国家全体に行き渡らせた、という点で高く評価されているチャベスの経済政策ですが、その反面、自立的調整機能が弱くなり、インフレが止まらなくなります。

農家が採算が取れないような価格を押し付けることもあり、生産力は縮小、ベネズエラは慢性的なモノ不足に陥ります。

また、根本的に「石油資源」に依存する体質が、ベネズエラ政府の中に育っていきます。この結果として、石油価格の変動で経済全体が左右されるようになります。

チャベス前大統領は2013年に癌で死去しましたが、政権を引き継いだ現マドゥロ大統領も、チャベス前大統領の政策方針を全面的に踏襲しています。

マドゥロ
2017年 ロイター/Carlos Garcia Rawlins

ベネズエラの人権侵害

さらに、旧来の石油資本化の代わりに政府の独裁化が進みます。その結果多くの反政府運動が弾圧されるようになりました。

世界的な人権侵害の是正に取り組むNGOのアムネスティのレポートによると、人権をめぐる2016年のベネズエラの動き関して、
「政府は非常事態を宣言し、4回延長した。2014年のデモ参加者に対する、国際法違反の犯罪と人権侵害の加害容疑者の多くは、いまだに裁かれなかった。刑務所は、定員を越え、囚人に対する暴力は日常的だった。ジェンダーに基づく暴力の被害者が裁判に訴えるには、大きな障害があった。人権擁護家とジャーナリストは、襲撃や脅迫を受けるだけでなく、しばしば中傷を受けた。野党と反政権派は、依然として投獄される危険があった。警察と治安部隊による過剰な武力行使の報告が複数あった。」[[アムネスティレポート 20162017]]
(https://www.amnesty.org/en/latest/research/2017/02/amnesty-international-annual-report-201617/) と報告しました。

世界中からの批難と経済制裁

こうした、ベネズエラ政府による人権侵害は国際世論でも懸念されています。特にアメリカのトランプ大統領は、ベネズエラに対して強い非難を表明しました。

「(ベネズエラの)国民は苦しみ、死んでいっている。ベネズエラに対しては、必要なら武力行使も含め、多くの選択肢がある」

という、かなり強気の発言もしています。アメリカは2017年8月にベネズエラに対して経済制裁の大統領令を発令、11月には追加の制裁も課す発表をしています。

また、アメリカに続いてカナダやEUも経済制裁を課しました。

このように、ベネズエラという国は以下の三重苦に悩まされています。
・困窮する経済
・外交的な孤立
・反政権運動の活発化

この危機的状況からの起死回生を狙った渾身の一撃が、今回のICOと言えるのではないでしょうか。

マドゥロ大統領の言葉を見てみましょう。

「ベネズエラは現在、経済制裁を受けている国々の国際的な金融戦争の真っ只中だ。仮想通貨を用いることで、通貨の主権の問題を前進させ、金融取引を産み、金融封鎖を乗り越えることができるかもしれない。」[la patilla]

この声明から、ベネズエラの厳しい状況と、そこから脱するための強い意志が見えてきます。

仮想通貨ペトロの詳細

さて、ここからはペトロ自体の仕様をみていきましょう。
<参考資料> Petro Whitepaper

whitepaper

・ERC20トークンなので、様々な他のサービスにも使える
・石油資源に裏付けされたソブリン通貨(中央銀行発行の暗号資産)
・国内外とのデジタルな取引・交換の際に、署名機能を果たすデジタルプラットフォーム
・ペトロは100,000.000単位で割り切れ、最小交換単位はMene(0,00000001)と呼ばれる
・ICOは発行可能な824万Petro(全体では)が売れるまで行われる
・コンセンサスの仕組みはProof Of Stakeが組み込まれる可能性があるが、当初は無効化され、保有者の承認を得た後にベネズエラ当局による議決で有効になる
・ペトロは国家公共機関、地方自治体によって使用を促進される
・労働者は、ペトロによる契約と給与支払いを選択できるようにする

集められた資金は以下の用途で使われる
・ペトロプロジェクト(15%):ロードマップに準拠した、技術開発とプロモーション費用
・エコシステム開発(15%):Petro保有者によって進められるペトロによるアプリケーションのプロモーション費用
・技術開発(15%):民間企業や国営企業の生産性と透明性の向上。技術やインフラ整備への費用
・中央銀行基金(55%):ペトロの使用を支援するための共和国への基金

反響

このベネズエラのICOを受けて、各所で様々な反応が起こっているようです。

米国では、財務省がペトロを購入した場合、米国が課したベネズエラに課した制裁に違反する可能性があると投資家に警告しました。

ワシントンのシンクタンク、大西洋協議会のベネズエラ専門家である、マリアノ・デ・アルバはこう指摘します。
「ベネズエラの原油で通貨を担保すると言うが、政府の説明によると、政府は通貨と石油の交換を保証していない。交換できるのは、ベネズエラの通貨ボリバルだけで、ボリバルにはほとんど価値がない。結局、きちんと予習をする富裕層がこれを賢明な投資と見なすとは思えない。人をひっかけて、誰かが実際に金を出すかどうかを試そうというマドゥロの必死さが透けて見える。」

また、ブルッキングス研究所の研究員ダニー・バハールは、
「ベネズエラの石油産業は破たんしている。経済の悪化が南半球で最悪の人道的危機を生み出している。市場はゆがみ、すべてが崩壊している。市場は仮想通貨に惑わされることはないだろう。ベネズエラの負債はあまりにも多い。」
といったコメントを残しています。

さらに、Ethereumの開発者であり、ブロックチェーン界のオピニオンリーダーであるヴィタリック・ブテリンは自身のtwitter上で、
「ホワイトペーパーを読み直して見てみると、これは石油に紐づいてはいない。石油価格に基づいたボリバルに紐づいているものだ。ペトロにはデフォルトのリスクがついて回っていて、ベネズエラが昔行ったように、ボリバリの公定レートを操作して部分的にデフォルトを行う可能性がある。」

「これが”ブロックチェーンと書いてあるから、安心できるに違いない!”といった楽観的な風潮から離れて、とりわけそれぞれのプロジェクトの信用モデルに注視すべき理由だ。Petroは完全に中央集権的であり、いくつもの手法でベネズエラ政府に依存しているが、そのベネズエラ政府は全く信用に値しない。」と発言しています。

どのコメントもペトロについて、その信頼性の低さを指摘する声が大きいようです。

まとめ

今回のペトロのICOによって、ベネズエラが仮想通貨を発行した最初の国となりました。

ベネズエラの他にも、ロシアではクリプトルーブルという国家によって公認を受けた仮想通貨を2019年に発行しようとしており、IT先進国で有名なエストニアでも、オリジナル仮想通貨エストコインの発行を検討していますが、ECBの反対にあいまだ実現していはいません。

このように、国家と通貨を取り巻く現状は実に様々です。

今後も国家がICOを行って通貨を発行するケースが出て来るとは思いますが、その国の背景と発行する通貨についてきちんと調べることをおすすめします。

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この記事を書いたライター GincoMagazine編集部
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